連載
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さて、お約束した◯◯の答え。それは「シ・リ・タ・ク・ナ・ル」だ。そう、問いは問いで終わらない。終われない。問うとどうなるのだろう。どうしたら問う力がつくのだろう。実際の教室から、学生たちの今をお届けする。
授業ノートから 第1回
「質問すると◯◯◯◯◯◯」
上智大学特任教授
帝京大学客員教授
松本 美奈
学生たちを大人が表すとき、繰り返されてきた言葉が「今どきの学生は」だろう。続くフレーズは時代で異なるものの、嘆きに収れんする。今あげつらわれるのは学力の低下だ。いわく、ゆとりの弊害、ネットの影響……。待ってほしい。肝心な何かを忘れていまいか。
学びは問いから始まる――。学びの本質を教えてくれたのは、一人の中学生だった。五年前、筆者は当時の本業である読売新聞記者のかたわら、東京都杉並区立神明中学校で、「電子新聞部」という部活を設けて指導していた。生徒と社会をつないでほしいと校長に頼まれたのだ。
その名の通り、紙ではなく電子媒体で見られる新聞を作る。部活当日の新聞を読んで浮かんだ質問を自分たちの取材、調査で解明し、記事にして載せるのだ。記憶に刻まれた部員の中学生のひと言は、そうした活動の中でぽろりと出た。
「質問すると◯◯◯◯◯◯」
問うことの面白さと難しさ、問い続けることで生まれる思考の深さ、それが学びをどう促し、人を成長させるのか。たくまざる一言に感服した。◯◯の部分にどんな言葉が入るかは後でお伝えするとして、そこでの経験がもとになり、いま大学で展開する授業が生まれた。最大の眼目は「質問力を磨く」で、科目名にもしている。帝京大学ですでに四年、上智大学でも三年間続けている。学生たちが「Class Q(Question)」と呼ぶ授業で目にする光景は、改めて◯◯の意味を考えさせてくれる。読者の皆さんなら、どう表現するだろう。漢字、ひらがな、カタカナ、どれでも結構、六字にまとめてみてほしい。
問うことへのそんな思い入れとは別に、現状の筆者の心境を率直に表すと、◯◯には「ニ・ゲ・タ・ク・ナ・ル」の六文字が入る。なんだか情けない有様なのだ。
分け入っても分け入っても青い山 種田山頭火
若葉が深い緑に彩りを変える、一年で最も快適な季節。だが今年は、その青さを楽しむどころではない。新型コロナウイルスのせいで、これまで通りの授業ができなくなったからだ。インターネット上を使った遠隔授業への切替えを求められている。上智はウェブ会議システム「Zoom」を使ったライブ型、帝京は録画型と、それぞれのスタイルを「原則」として提示している。各大学の授業形態やシステム事情などで一長一短があるのだろう。
ライブは一見よさそうだ。学生同士のチーム学習ができるし、一人一人の反応も見ようと思えば見られる。ただし、一定以上の水準の機器があり、それを使いこなす能力が授業する側にあれば、の話だ。
さらに問題なのは、学生側の環境だ。どんな機器を持っているか、通信環境はどんな状態かに左右される。スマートフォンしか持っていない、しかも容量の小さい格安パックで契約となったら、一回の授業で容量オーバー、通信不能に陥ってしまう。住環境がかかわる恐れもある。例えばマンション住まいで、家族や他の住民が在宅勤務して毎日テレビ会議、その子どもたちもパソコンを使ったオンライン授業を受けているとしたら、マンションの回線自体が破綻しないだろうか。日本全体を考えるとどうなるのか。ライブで従来通りの授業がそのまま展開できる保障はない。
そこへいくと録画方式は、大学のポータルサイトに先生が書いた授業資料を張り付け、学生が開いて学ぶ方式で、環境への負荷は比較的少ない。学生側の時間の使い方にも弾力性が出る。
しかし、Class Qとの相性に限って言えば、いずれも全くよろしくない。まず筆者の機器の「操作能力」が水準未満だから。パソコンのセットアップに始まり、動作に障害が見えるたびに対応をリケジョの娘に押し付ける羽目になる。どうすればいい? 不安をかきたてる疑問ばかりが脳裏をかすめ、「逃げたくなる」のだ。
次に、これが最大の懸案だが、筆者の授業は、学生が顔と顔を突き合わせ、言葉を交わすことによって、問いを深化させていくスタイルだからだ。
では一体、Class Qとはどんな授業か。
端的に言えば、事前課題、事後課題がてんこ盛りの授業だ。ひとりで取り組む課題だけでなく、チームで立ち向かわなくてはいけない内容も多い。文部科学省は喜ぶかもしれないが、学生には間違いなく嫌われる授業だ。
教材には当日の読売新聞の朝刊を使う。机と椅子は壁際に寄せ、みんなで車座になってニックネームで呼び合う(右上写真)。質問するのは、筆者ではなく学生自身。一つの記事を「自分以外の誰か」になりきって読み、チームの仲間と一緒に疑問点を次々に洗い出していく。先生の質問に答え、与えられた課題をこなせば一定の評価が得られるのは、せいぜい高校まで。ここは大学、学問の府、与えられた問いに応答するだけならば、Googleで十分だ。自ら問い、課題を設定して解決策を講じていく力は人間にしか持てない。そして、磨かれた「質問力」はきっと社会で生きていくための武器になる。それが授業に込めた狙いだ。
教育問題を取材する新聞記者として数多くの現場に足を運び、実践を見せてもらった。高い問題意識を持つ実践家たちとの交流が生まれ、先人たちの文献にも触れた。未完成ではあるが、経験を通して作り込んできた授業には、毎週のように企業や他大学、高校から見学者が来るようになった。その分、コロナ禍で授業スタイルが損なわれることに強い不安を感じる。
とはいえ、実は逃げられない。学生の力を見せつけられているからだ。上智、帝京両大学で同じ授業を展開していることから、両大学の学生と企業人を集めて今年一月、帝京大学で合同Class Qを行った。そこで学生同士の交流が生まれ、春休みの期間中、一緒に教材づくりに取り組んでくれた。
前述の通り、自ら言うのもナンだが厄介な授業で、どちらの大学でも、履修者の半数近くが途中で履修を辞退したり、単位を落としたりする。そこで学び続け、単位を勝ち取れる学生はかなりの強つわ者ものと言えるだろう。教材作りに踏み込んできた強者たちのチーム名は「教材(K)開発(K)チーム(T)2020年」、略して「KKT20」。自分たちはこのクラスで何に困っているか、どうすれば解決できそうか、学びを深められるか。考え、悩み、工夫を凝らして教材が練られている。
教材を前に、考えた。授業を進化させるしかない。ライブと録画のいいとこ取りで、キャンパスの壁を越えた新しい学びの場を作ろう。どこまでも青い山に分け入ってみようではないか、と。
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お問合せが続いているので申し込み期限を延長します。検討中のみなさんお急ぎください!
(ただし、16日以降は若干の制限があることをご了承くださいませ) - 【TV放送】
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『はるの空』の著者、春日晴樹さんのドキュメントです。「手話」のこと理解できます。
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肢体不自由教育2023年259号
『発達に遅れがある子どものためのお金の学習』
『特別支援教育における学校・教員と専門家の連携』
『かゆいところに手が届く重度重複障害児教育』
書評が掲載されました。 - 『発達に遅れがある子どものためのお金の学習』
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週刊教育資料 第1691号2023年2月20日号
『発達障害・知的障害のある子どものSNS利用ガイド』の書評が掲載されました。 - 『発達障害・知的障害のある子どものSNS利用ガイド』
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点字毎日新聞 第1251号
『視覚障害のためのインクルーシブアート学習』の記事が掲載されました。 - 『視覚障害のためのインクルーシブアート学習』
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肢体不自由教育2023年258号
『障害の重い子供のための 各教科の授業づくり』書評が掲載されました。 - 『障害の重い子供のための 各教科の授業づくり』
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週間教育資料2023年1月16日 No.1687
『大人の発達障害 「自分を知ること」「人に伝えること」』書評が掲載されました。 - 『大人の発達障害 「自分を知ること」「人に伝えること」』
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理科教室2月号 vol.818
(2023年02月01日発行)
『中学・高校物理の学びに役立つ実験集』盲学校の物理実験の工夫と生徒を育む授業として記事が掲載されました。 - 『中学・高校物理の学びに役立つ実験集』
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月刊人材ビジネス vol.438 (発売日2023年01月01日) 『労使関係法の理論と実務』
人材ビジネス関係者にお勧めの一冊として記事が掲載されました。 - 『労使関係法の理論と実務』
- 北羽新報 2022.9.13
山口新聞 2022.9.19
『はるの空』春日さん夫婦の民泊運営についての記事が掲載されました。 - 『はるの空』
- 肢体不自由教育2022.257号
『障害の重い子どもの授業づくり 最終章』 の書評が掲載されました。 - 『障害の重い子どもの授業づくり 最終章』
- 肢体不自由教育2022.256号
『自立活動ハンドブック第1巻〜第3巻』『障害のある子供の教育支援の手引』 の書評が掲載されました。 - 『自立活動ハンドブック第1巻』
『障害のある子供の教育支援の手引』 - 肢体不自由教育2022.255号
『インクルーシブ教育システムを進める10の実践』 『知的障害教育における「学びをつなぐ」キャリアデザイン』 の書評が掲載されました。 - 『インクルーシブ教育システムを進める10の実践』
『知的障害教育における「学びをつなぐ」キャリアデザイン』 - NHK総合(全国放送)「空知くん 3歳 〜空知の声は聞こえなくても〜」
本放送 4月1日(金) 午後7時30分-
再放送 4月2日(土) 午前10時55分-
『はるの空』の春日さんの家族を追ったドキュメント番組が放送されます。聴覚に障害のある両親と3歳の息子空知くんの成長記録です。 - 『はるの空』
- 特別支援教育研究2022年4月号『キャリア発達支援研究8 いま、対話でつなぐ願いと学び』の 書評が掲載されました。
- 『キャリア発達支援研究8 いま、対話でつなぐ願いと学び』
- 実践みんなの特別支援教育2022年4月号 『知的障害教育における「学びをつなぐ」キャリアデザイン』の 書評が掲載されました。
- 『知的障害教育における「学びをつなぐ」キャリアデザイン』
- 肢体不自由教育2022.254号 『インクルーシブ教育システム時代の就学相談・転学相談』の書評が掲載されました。
- 『インクルーシブ教育システム時代の就学相談・転学相談』
- 上毛新聞文化欄 2022.3.1
『視覚障害のためのインクルーシブアート学習』の記事が掲載されました。 - 『視覚障害のためのインクルーシブアート学習』
- あとはとき第13号『視覚障害教育入門Q&A 新訂版』 の書評が掲載されました。
- 『新訂版 視覚障害教育入門Q&A』
- 琉球新報2022.3.3
『はるの空』春日さんの講演についての記事が掲載されました。 - 『はるの空』
- 特別支援教育研究NO.775
(令和4年3月発行) 図書紹介 - 『知的障害教育の「教科別の指導」と「合わせた指導」』
- NHK総合(全国放送)「空知くん3歳―心と心で会話する親子―」 11月24日(水)の放送で『はるの空』の春日さん親子が放映されました。
- 『はるの空』
- 肢体不自由教育252号
(令和3年11月発行) 図書紹介 - 『みんなにやさしい授業の実践』
- 特別支援教育研究10月号
(東洋館出版社)図書紹介 - 重度・重複障害児の学習とは?
- 特別支援教育研究10月号
(東洋館出版社)図書紹介 - これ一冊でわかる「教育相談」
- 北日本新聞 9/5 記事
- はるの空
- 特別支援教育研究9月号
(東洋館出版社) - 『今日からできる! 小学校の交流及び共同学習』
- 特別支援教育研究9月号
(東洋館出版社) - 『教材知恵袋 自立活動編』
- 埼玉新聞2021.8.6
- 『私たちが命を守るためにしたこと』の記事が掲載されました。
- TBSラジオ「人権TODAY」(土曜日8時20分〜)、7月3日の放送で、
- 『私たちが命を守るためにしたこと』の本が取り上げまれます。
- 肢体不自由教育250号
(日本肢体不自由児協会) - 文字・文章の読み書き指導
- 4/13号 あさひかわ新聞 記事
- はるの空
- 4/6 北海道新聞 記事
- はるの空
- 3/13 美瑛新聞 記事
- はるの空
- 実践みんなの特別支援教育4月号(学研教育みらい)
図書紹介 - 特別なニーズ教育の基礎と方法
- 肢体不自由教育249号
図書紹介 - 授業力向上シリーズNo.8 遠隔教育・オンライン学習の実践と工夫
- 特別支援教育研究3月号
(東洋館出版社)763号
図書紹介 - キャリア発達支援研究7 思いと向き合い可能性を紡ぐキャリア教育
- 実践障害児教育2021年2月号
(学研教育みらい) - カリキュラム・マネジメントで子どもが変わる!学校が変わる!
- 肢体不自由教育248号
(日本肢体不自由児協会) - 特別支援教育のカリキュラム・マネジメント
- 肢体不自由教育247号
(日本肢体不自由児協会) - 子ども主体の子どもが輝く授業づくり3
- 10/8産経新聞 記事
- 社会参加をみすえた自己理解
- 10/6大阪日日新聞 記事
- 社会参加をみすえた自己理解
- 肢体不自由教育246号
(日本肢体不自由児協会) - 特別支援教育のステップアップ指導方法100
- 肢体不自由教育246号
(日本肢体不自由児協会) - 「自立活動の指導」のデザインと展開
- 教育家庭新聞8/3号
- 特別支援教育の基礎・基本 2020
- 実践障害児教育8月号
(学研教育みらい) - 今日からできる! 発達障害通級指導教室
- 実践障害児教育7月号
(学研教育みらい) - 知的・発達障害のある子のプログラミング教育実践
- 特別支援教育研究6月号
(東洋館出版社) 図書紹介 - 「自立活動の指導」のデザインと展開
- 肢体不自由教育245号
(日本肢体不自由児協会) - 適切行動支援 PBSスタディパック
- 特別支援教育研究3月号(東洋館出版社) 図書紹介
- キャリア発達支援研究 6
- トーハン週報`20 2/3号
- スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子
- 西日本新聞 熊本県版朝刊
- 思春期の子どものこころがわかる25のQ&A
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